カナダの北極海域でクルーズ船が座礁

A cruise ship runs aground in Canada’s Arctic waters (Arctic Today)

ついこの前の8月24日、カナダの北極圏海域を航行していたロシアのクルーズ船Akademik Ioffeが座礁した模様。

幸い、同行していた他の船に加えて、カナダの海上保安の船が救助を行ったので、乗っていた162人の乗客も乗組員も無事。

この記事の興味深いところは、北極圏の航行に伴うリスクという面をちゃんと書いているところ。

まず、Northwest Passageと呼ばれる、アラスカとカナダの北にある北極海の航路を渡る船のうち、調査目的などの船ではないクルーズ船などの数は、ここ25年で20倍にも増えたそう。20倍!! 現在では、この航路を通る船のうち、こういった民間の船は8%にも上るとのこと。ちなみに1990年ではこの数字は1%しかなかった(それでもあったのか!とびっくりしたけど)。

北極海域の航海は、変わりやすい天候もあってかなりリスクがある。その上、カナダの北極海域はまだ10%しか調査済みでない模様。つまり、正確な海図がまだ完成していない海域! これは確かにリスクが高い。

今まで行った事ない所へ! 珍しい所へ!という旅行者のニーズに応えるために、北極海域へのクルーズは今後も増えると思う。それに伴って、こういう事故の数も増えるのではないかな。

砕氷船なしでの北極海航路の単独航行に成功

少し前にニュースにもなっていたけれど、LNGタンカーが、ヨーロッパから東アジアへ、初めて砕氷船のガイドなしに北極海航路を通って航行したとのこと。

First tanker crosses Northern Sea Route without ice breaker (BBC)

とは言ってもこのタンカーChristophe de Margerieは、世界初の砕氷タンカーなので、自分で氷を割って進んでいくことができる。

注目すべきは、このノルウェイ発韓国行きの航行に、19日しかかからなかったこと。スエズ運河経由の航行と比べると30%も短い計算になるとか。

ロシアは、ヤマル半島から東アジアへのガス輸送にこの船を活躍させたいみたい。

もちろん北極海の航路はリスクが大きく、保険料も高ければこの砕氷船を使うのも高い。加えて、北極海地域の環境へのインパクトに対する懸念も多くある。

海の環境保護活動を行なっている団体Seas at Riskは、30%のコスト削減が、非常に貴重で繊細な環境・生態系を脅かす価値があるのか、というコメントをこの記事にてしている。

ありきたりなことを言うと、地球は一つしかなく、一度破壊された環境、消えた生物たちを元の状態に戻すのは非常に難しい。そこまでして、経済効果を優先したいだろうか。でもロシアは気にしないかな。

北西航路航海の最短記録が達成される

7月29日に、フィンランドの砕氷船MSV Nordicaが、北西航路の最短航海記録を達成したらしい。

Icebreaker sets mark for earliest Northwest Passage transit (AP News)

カナダのVancouverを7月5日に出発し、グリーンランドのNuukに到着するまでにかかった日数は、24日!

北極海の氷がどんどん失われていくにしたがって、これまで困難とされていたこの海域での航海が少しずつ、少しずつ容易になっている模様。もちろん、まだ様々なリスクが大きい航路ではあるけれど、観光用のクルーズも既にあることだし、少しずつトラフィックは増えていくのだろうか。

The Atlanticに、その航海からの写真が一部公開されていた。

Earliest Crossing of the Northwest Passage Ever

北極海の氷が失われ、そこに住む生き物たち(そしてそれに依存する地域の住民たち)の暮らしに大きな影響を与えることは懸念しつつも、自分も北極海をこうして見てみたいなぁとも思う。

TRANSIT 34号

今更になってしまったが、TRANSITという素敵な旅雑誌の34号がとてもいい。

TRANSIT34号 極北の夜空を見上げよう オーロラの煌めく街へ

実は発売日にワクワクして買いに行った。

内容の詳細はリンク先を見てもらうとして、特に素晴らしいと思った部分。

  • 極北の人々の暮らしについてイラストや写真付きで紹介されている。
  • オーロラの仕組みを科学的に説明している。
  • 北極圏になぜ注目が集まっているのか(資源的な面で)の政治的な記事もある。
  • アイヌの人々の暮らしについても、もちろんちゃんと紹介されている。

ただの「素敵な北欧」「おしゃれ雑貨」「オーロラにパワーをもらう」とかいうふわふわした内容ではないのだ。さすがのTRANSIT.

余談だけれど、これまで「美しき○○」というタイトルばかりだったTRANSIT、この号だけそのパターンから外れているのは、どういう意図があってのことか気になる。

北極圏クルーズへの厳しい批判

以前、豪華客船で北極海クルーズで、Northwest Passageを航行予定の豪華クルーズについての記事を紹介したけど、ごく最近そのクルーズ船がアラスカからニューヨークに向けての船旅に出発し、それに対する批判的な記事があちこちに。

Arctic cruise gets a frosty reception (The Times)では、「地球温暖化によって訪れた機会を使って、まさにその地球温暖化によって危機にさらされているエコシステムを見に行くという行為は皮肉的だ」というUniversity of British ColumbiaのByers教授のコメントが紹介されている。

Huffington Postのこちらの記事も批判的。

UBCのByers教授は、The Guardianの記事でも、この船旅を”extension tourism”という言葉で表現している。絶滅していく、消えていく世界を見に行く観光旅行だ、と。

もちろん、クルーズ会社は安全面や環境への拝領は十分だとのコメントをしているし、船から外に出て観光する際の厳しいルールもあるとのこと。この船旅のための準備に3年を費やし、北極圏への影響を最小限に抑えるつもりだそう。

同じThe Guardianの記事でByers教授が懸念するのは、この船旅そのものよりも、この船旅によって大規模な北極圏への観光ブームが始まってしまうことだそう。既に非常に脆い環境となってしまっている極北にとって、大きな船に乗ったたくさんの観光客が押し寄せるのは、この地域の環境とそしてそこに住む小さなコミュニティの人々の生活の状況を悪化させてしまう可能性が非常に高い。

そして忘れてならないのは、北極海はどこからも遠く離れた場所ということ。何か事故があった際、すぐに救助が届くような場所ではない。

北極圏へは自分も行ってみたいが、同じ理由で、大規模なツーリズムはすべきではないと思う。

北極圏への高速道路

カナダの極北で進められている巨大プロジェクト、the Inuvik-Tuktoyaktuk highway.

Northwest Territoriesの北にある、Inuvikという3,500人ほどの人口の村と、北極海に面していて、氷の道のある冬期以外は空からしかアクセスのできない人口1,000人にも満たない村を、高速道路で繋ぐという壮大なプロジェクトである。予定通りに進めば、2017年には開通する予定。

永久凍土の上に高速道路を、なんて、エンジニアではない自分にも「それは大変だ」と分かるし、道路を敷くためのあれやこれやを運ぶ巨大トラックに地面が耐えられるのは、氷が分厚い冬だけ。つまり、このプロジェクトは冬の間しか建設が進められない。それでも、この4月7日に、高速道路のための砂利が繋がった。

ITH Connecting

この高速道路が完成すれば、カナダ極北に散らばっている、冬以外は空からしか外界とのアクセスがないというような小さなコミュニティにとってのライフラインになる。

同時に、北極圏でガツガツ資源を採掘したい企業にとっても、アクセス向上は大きなプラスになる。

Cryopoliticsの記事”Seen from Space: Canadian Highway to Arctic Ocean nears Completion”に、この高速道路の衛星写真が掲載されてるけど、圧巻!

CRUISE Traveller Winter 2016「C.W.ニコル、北極圏への航海」

ふと本屋で見かけた、CRUISE Travellerと言う雑誌の2016年冬号

クルーズ旅にあんまり関心があるわけではないので、普段だったら開いてみたりしないんだけど、なんと特集が「C.W.ニコル、北極圏への航海」とある。

北極圏へのクルーズ! ニコルさんの名前見るのも久々!

タイトルの通り、彼が北極圏へのクルーズへ参加した際のことが特集記事になっている。この「北極圏」はカナダがメイン。

ちょっと調べたら、日本人向けにそういうパッケージがあるのね。

北極圏は陸路でも空路でも訪れるのは大変なので、やっぱりクルーズが一番お手軽かも。そんな機会があれば参加してみたいものだ。

Shell, アラスカにさよなら

Shell stops Arctic activity after ‘disappointing’ tests (BBC News)

北極圏のエネルギー関連ニュースを追いかけている人には大きなニュース。これまでずっとアラスカ沖での石油開発に膨大な時間とお金と労力をかけてきたShellが、アラスカにさよならをすることにしたそう。

Chukchi Seaというエリアでの採掘活動を続けていたものの、当初予想されていたよりもずっと少ない量の石油しかないとわかって、とのこと。

原油価格低迷を機に、他のオイルメジャーが次々とコストが莫大にかかる北極圏での採掘から手を引いていくなか、Shellだけはアラスカを諦めていなかったので、この突然のニュースはなかなかのサプライズ、とBBCの記事。

ちなみに、タイミング悪く、9月28日からアラスカのフェアバンクスにてArctic Energy Summitという会合が開かれていて、これは名前の通り、北極圏におけるエネルギー開発をテーマとした集まり。Bennet女史のブログによると「葬式のような」雰囲気だったそう。

「氷のカーテン」

The ice curtain that divides US families from Russian cousins (BBC)

BBCに、この前投稿した、ベーリング海峡域に住む人々の話が取り上げられていた。ベーリング海峡に引かれた国境を「氷のカーテン」と表現して、国境のこちらとあちらに勝手に分けられてしまった人たちの話を紹介している。

以前のポストでは、この地域の住民はお互いの家族に会うためであればビザなしで渡航可能になるってニュースを取り上げたけど、やっぱりそんな簡単な話じゃないみたい。ビザなし渡航の権利はあっても、必要な書類やら手続きが大変な模様。この記事はアメリカ側にいる人たちの話がメインなので、あぁ、ロシアってそういうのすごく面倒そう…と納得。

記事の最後にある、「私達はアメリカ人やロシア人が来て、私達家族を引き離す前から何千年も前からここで暮らしているのに」という言葉が印象的。世界中のあちこちでこういうことがあって、北極圏のこの地域もその1つ。